夢名残の空3


そもそも、ヒバリと綱吉の出会いはヒバリが5歳、綱吉が4歳の時だった。
その頃から既に、ヒバリはご近所では有名となっていた。―――いろんな意味で。
曰く、群れている人を見つけると老若男女関係なくトンファーで叩きのめす。
曰く、若干5歳にして並盛を掌握しその秩序を築いている。などなど。
まあ、そんなことを噂されている事もあり近辺の住民はヒバリの姿を確認すると一目散に逃げるか目を合わせないようにしていた。
ヒバリは秩序というのものを一番大切にしていた。――秩序というがそれはヒバリの価値観によって決まってくるため一般的な秩序とはかけ離れている場合があるが――だから常識も秩序も無い群れる子供が一番嫌いだった。
そんなヒバリが幼稚園など通うはずもなくこの頃は昼間から街によく出歩いていた。
街に繰り出しては群れている不良をトンファーで叩きのめし回っていたのだ。
そんなヒバリが徹夜で不良を咬み殺した後、一時の寝床を探していた。そこでふと以前群れている子供を叩きのめした後、誰も来なくなった公園を思い出しそこへ足を向けた。
そこにある桜の下で少し休もうと公園の階段を昇る。
丁度見ごろの桜の根元で座り込み、背を桜の幹に預け目を瞑る。
が、5分と経たない内にヒバリの耳に階段を昇る足音が聞こえてきた。
音が軽いため恐らく子供だろう。足音からするに1人だろうがタイミングが悪かった。
ヒバリは自分の眠りを邪魔されるのを嫌う。
たとえ群れてなかろうが咬み殺す。
そうヒバリは心で決め、近づいてくるのを待つ。
近くで息を呑む音が聞こえ、同時にヒバリは取り出したトンファーで草食動物の首を狙った。が、首元まで行きトンファーは止まった。
目の前の草食動物は予想通り子供だった。ただ予想と違ったのはその子供がボロボロと涙を流しながらヒバリに手を伸ばしていたのだ。
思わずヒバリは目を丸くし動きを止めてしまった。
「…イ…タイ?」
子供が話しかけてくるが何と言っているのかよく分からなかった。
「イタイ?ダイジョウブ?」
そう言って子供はヒバリの頬に手を伸ばし撫でる。
そこにきてヒバリは自分が先ほどまで相手をしていた不良の返り血が顔についていた事に思い至る。
どうやら、この子供は返り血をヒバリが怪我をしたと勘違いしているらしい。
それにしても痛いとしてもヒバリが痛いはずなのに何故この子供が泣くのだろう?そうヒバリは思いながらもすっかり気が削がれてしまう。
「痛くないよ。怪我をしているわけじゃないからね。」
そう言いながら自分の頬にあった子供の手を払う。
一瞬、余計に泣くかな。と思ったが子供はキョトンとし
「イタクない。よかったネ。」
とにっこり笑いながら舌足らずな言葉で言う。
ヒバリは思いもよらなかった子供の態度に黙ってしまう。
「オレはサワダツナヨシです。オニイチャンはナマエなにですか?」
綱吉は何故か自己紹介を始め、ヒバリに名前を聞いた。どうやら奈々の教育で初めて会った人には自己紹介をするよう言われていたようだ。
そこでヒバリは肩を震わせ笑い出す。
どうやらこの短時間で突飛な言動ばかりする綱吉がヒバリは気に入ってしまったようだ。
今までヒバリの周囲には怯え、恐怖もしくは殺意。そんな目しかなかった。
綱吉のまっすぐヒバリを見る目が気に入った。そんな目をヒバリは今まで知らなかった。
すっかり眠りを妨げられたことなど忘れてしまった。
綱吉はそんなヒバリを見ながら頭に?を浮かべ少し首を傾げる。
「雲雀恭弥。恭弥でいいよ。ツナヨシ。」
やっと笑い終えたヒバリが何とか息を整え言った。
「キョーヤさん?」
どうやら『きょうや』とは言えない様だ。
「そう、キョーヤだよ。」
「キョーヤさん、キョーヤさん、キョーヤさん。」
綱吉は嬉しかったのか何度もヒバリの名を呼んだ。
そこでヒバリがあることに気が付く。
「ツナヨシは何処から来たの?」
「ん〜、あっち。」
と指を指すがイマイチ良く分からない。
「ツナヨシ。保育園はどうしたの?」
綱吉の今の格好は保育園の制服だった。今の時間帯ならまだ保育園に居る時間のはずだ。
「……おこらない?」
そう上目遣いで綱吉はヒバリに聞く。
「ああ、怒らないよ。」
普段ならそんな事は絶対に言わないヒバリなのだがどうやら綱吉には甘いようだ。
「ほいくえん、あんまりたのしくないからでてきたの。」
話を聞いて分かったのだが綱吉は今までも何度か保育園を抜け出している常習犯らしい。
かといって、運動神経が良い訳ではないようだ。何度か会う内に分かったが、頭もどちらかというといい方ではないようだ。
だが、人の心の機微に敏いのか時々、確信を突いたことを言ってきたりと驚くこともあった。
何度か保育園を抜け出した綱吉と行動を共にしている内に、すっかり綱吉を気に入ったヒバリは、苛められている綱吉を見つけると絡んでいる子供を咬み殺し、やがてヒバリは綱吉に対するある感情に自覚を持つと、彼に近づこうとしたものを悉く追い払っていった。
それはヒバリが小学校に入ってからも変わらなかった。
常人ならとっくに分かりそうなほどヒバリは綱吉に対して甘かったし、ヒバリ自身態度で表したり、言ってみたりもしたのだがさっぱり分かってくれなかった。――やはり、鈍い。
そんなヒバリはある意味油断していたのだろう。
来年になれば綱吉も同じ小学校に上がってくる。そうなれば今よりも一緒にいられる時間が増えると、そう思っていた。
だが、綱吉は保育園を卒園する前に消えた。
ヒバリは行方を追った。出来る限りの手段を使って。
だが、綱吉の行方は杳として掴めなかった。
だから、何度も綱吉と初めて会った桜の木の下に行き待った。――それは綱吉と再会するまで続く――
やがて、ヒバリは中学に入り名実共に並盛の秩序として君臨していた。
そんな時に綱吉を見つけた。
相変わらず色素の薄い髪にピンッピンッと跳ねた癖毛、でもその髪が意外にふんわりと柔らかい事をヒバリは知っている。大きな琥珀色の目に母親似の少女めいた顔立ち。幼い頃とちっとも変わらない。自然とヒバリの頬も緩む。
が、それも長くは持たなかった。綱吉はヒバリを覚えていなかった。
ヒバリは暫く様子をみようとあえて綱吉から距離を取った。
しかし、最近になって何故か綱吉の周りに人が集まるようになった。
校則違反のタバコと野球バカとはよく群れるようにまでなっていた。昔はヒバリ以外とは一緒にいなかったのに――ヒバリが追い払っていたのだが――
だから、応接室に綱吉が来たときは少し苛立っていた。何故、自分以外の奴と一緒にいるのだと。
だから少し軽く殴った。今まで一度も手を上げたことの無かった綱吉に。他の2人には起きないように力を込め攻撃した。
綱吉と話をしたかった。抱きしめたかった。一緒にいて欲しかった。何処にも行って欲しくなかった。
しかし綱吉は泣きそうに目を潤ませていたのに、銃声と共に急に強くなりヒバリに殴りかかって来た。――後日、綱吉から死ぬ気弾という弾を赤ん坊に撃たれるとああいった現象がおこると教えてもらった。がヒバリはあまり納得していなかった。赤ん坊がタダ者ではないことは分かった。でも死ぬ気弾や赤ん坊の正体については綱吉が教えてくれなかったからだ――
綱吉は本当に昔から変わっている子だった。
幼い頃は自分だけのモノだったのに。
ここ数日間はずっとそんな事を思い苛々が続いていた。
だから、久しぶりにあの桜の木へ向かった。
が、ヒバリの眉間に皺が寄る。
その場所に草食動物が群れていた。普段なら軽く叩きのめすぐらいで許しているのだが、このタイミングと場所が悪かった。運の悪い不良はその場に居た全員―逃げ出そうとした者も―すべて半殺し状態にされていた。
そんな所へ綱吉が来た。何故、この場所へ来たのかは分からなかったがヒバリを見て怯えているのは分かった。いつもいる例の2人は見当たらない。
このまま、攫ってしまおうか。
そんなことをヒバリは思う。ゆっくりと綱吉に近づいてゆく。
すると急に綱吉がクラリと体勢を崩し後ろの階段へ落ちそうになる。
次の瞬間ヒバリは地を蹴って綱吉の腕を取り、思い切り良く自分のほうへ引っ張る。
そして綱吉を抱いたまま倒れる。
思っていた以上に華奢な体に少し驚く。
そして綱吉にどこか怪我はしなかったかと思い「ねぇ。」と声を掛けると、綱吉はヒバリを見て固まり、次の瞬間には飛び退いた。
もう少し久しぶりの抱き心地を満喫しておきたかったのに。ヒバリはそう思い不満そうに眉を顰めた。
仕方なく立ち上がるが、まだ綱吉が座ったままなのを見てふぅと小さく溜め息をついた。
鈍臭いところは幼い頃と変わらないのに。そう思いながら綱吉に手を差し伸べる。
が、どうも様子がおかしいことに気が付く。
(そういえば、さっきも急に倒れそうになってたけど)
そして急に綱吉が叫んだ。
「キョーヤさんだ。」
ヒバリは驚いて目を丸くするが、どうも綱吉は「キョーヤ」と「ヒバリ」が同一人物だということに気が付いていないらしい。
頭に来たヒバリは自分が知っている綱吉の幼い頃の恥を語る。
案の定、綱吉は顔を真っ赤にさ、そしてやっと「キョーヤ」と「ヒバリ」が同一人物だということに思い至ったらしい。その場にヘタリ込んでしまった。そんな些細な仕草や行動が昔と変わっていないことにヒバリの中に喜びと笑いが起こった。
その後、学校に戻り綱吉と話し居なくなった訳なども分かった。
しかし綱吉にかけられた暗示は一体誰がしたのか。どうやら綱吉の父親が一番怪しい。
まあ、誰が暗示をかけたとしてもヒバリは自分の事まで綱吉から忘れさせていた奴を見つけたときには必ず咬み殺す。そう思っていた。
そして話の中で綱吉と2人っきりの時間を今後取れるよう約束を取り付ける。
二度と見失わないように。誰にも彼を奪わせないように。そうヒバリは心に誓った。



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