夢名残の空8


「……ちがう。」

綱吉の小さな呟きにリボーンだけが気付く。
山本が腕を怪我しながらも犬を倒し、なんとか落ちた穴から脱出する。
しかし山本との戦いの最中、犬もまた綱吉を見て一瞬固まった。
それに気が付いたのは綱吉とリボーンの2人だけだったが。どうやら綱吉と骸らが知り合いなのは決定的なようだった。
そしてリボーンが六道骸ら主要メンバー3人が写った写真を見せてくれた。
「おそらく獄寺を襲ったメガネをかけたのが写真の左に写っている柿本千種。今、山本がやっつけたのが右に写っている城島犬。そして真ん中に写っているのが六道骸だぞ。」
リボーンの説明を聞きながら六道骸だといわれる人の写真に写った姿を見たが綱吉は違和感を覚え、思わず冒頭のように呟いた。
あえて綱吉の呟きにはリボーンは何も言わなかった。

しかし、そこで雑木林の中から人の気配がし綱吉は振り向く。
「フゥ太!」
綱吉は驚きの声を上げた。
フゥ太はどうやら骸の人質になっていたらしい。
綱吉がフゥ太の無事な姿を見てほっと安心したのもつかの間、フゥ太は骸についていくと言って林の中へ行ってしまう。 「なっ!ちょっ!待ってフゥ太!」
それを綱吉は追いかけた。
(フゥ太は人質になってたんじゃないのか?)
何故、骸についていくなんて言ったのか綱吉には分からない。けどあのフゥ太の怯えきった目がとても気になった。
そんなことを考えならフゥ太を追いかけるが途中で見失ってしまう。しかも先ほどまでは道らしきものがあったはずなのにそれさえも見当たらない。―――完全に迷子だった。
(オレ、フゥ太を追いかけてきたのになんで迷子になってんの〜〜!!)
心の中で叫ぶ。
マズイ。フゥ太を見失ったどころか迷子になって元の場所に帰れなかったらリボーンに怒られる。
綱吉の顔は完全に青褪めていた。
とりあえず帰る道を探そうと方向を変えた所で何故か首筋がゾクッとし後ろを振り向いた。
「フゥ太?」
そう声をかけながらそちらへ振り向く。そして固まる。
人はいた、しかしフゥ太では無かった。
「お久しぶりです。」
変わった分け目をした髪型。赤と蒼のオッドアイを持つ黒曜生がにっこりと微笑みながら声をかけてきた。
そんな姿を見て綱吉は頭の中が真っ白になる。
『綺麗な瞳の色ですね。ムクロさん。』
自分の声が頭の中で聞こえた。そんなことを言った覚えは無いのに。
そして目の前の黒曜生を驚愕の目で見ながら呟く。
「…ム、ムクロ…さん?」
分からない。分からないが彼が骸だと綱吉は確信した。
すると骸は驚いたように目を丸くし
「おや?思い出したのですか、ツナヨシ君。」
綱吉はビクッと体を強張らせた。
そして目の前の彼が自分の記憶喪失に関係しているのだと確信する。
とたんに逃げ出したい衝動に駆られ、身を翻そうとしたところで骸に腕を掴まれ、骸のほうを向かされる。
「どうやら完全に思い出したわけではなさそうですね。でも暗示は解けかかっているようですが。」
(…あんじ?)
綱吉は怯えたままだったが思わず呟く。
「暗示って一体……」
すると骸はニッコリと笑みを作り
「君が気にすることではありませんよ。」
と誤魔化した。
そして綱吉の腕を引っ張り歩き出す。
「では、行きましょう。」
(…はい?行くってどこへ?)
いきなりそう言われ困惑する綱吉を他所に骸はニコニコと笑いながら歩く。
「ちょ、ちょっと待ってください。そんな急に言われてもオレはあなたの事を知らないっていうか覚えてないし…」
すると骸は歩みを止め。綱吉の方を振り向く。
「僕は君の事を知っています。覚えています。それではダメですか?」
綱吉は想像していた骸とまったく違う言動をする骸にさらに困惑を深める。
本当に目の前の彼がフゥ太を人質にしたり、千種や犬を使って並中の生徒を襲わせた張本人なのか自信が無くなる。
「ダメっていうか…。いきなり行きましょうって言われても。それに皆が待っているんで―。」
「皆?ああ、君と一緒に来た連中なら今、先輩が片付けていると思いますよ。」
「なっ!?片付けるって!」
綱吉は驚いて骸を見るが先ほどと変わらずにこやかな笑みを浮かべていた。
「お願いです。その人を止めてください!」
綱吉は必死に訴えた。
「イヤですね。僕には綱吉君しかいりません。ですから他の方々には消えていただいたほうが都合がいいんです。」
「そんなっ!!」
そう言いきる骸に綱吉は寒気を覚える。
何故、骸がそこまで自分にこだわるのか分からないが、今はその先輩とやらを止めに行かなければ。
そう思い骸に掴まれた手を振りほどこうと手を引っ張る。
すると意外なほどあっさりと骸の手は簡単に外れた。
綱吉は一目散にさっき通ってきたであろう道を戻っていく。
骸が追ってくる気配は無かったが少し行った所で彼の声がした。
「先ほど君が探していたフゥ太くん、こちらに帰ってきてますよ。」
足を止め振り返る。骸はやはり笑顔のままだった。
綱吉は眉をハの字にして困惑した顔になったが、グッと堪えるようにして雑木林の中を掻き分けていった。
やがて骸1人になると、どこからともなく千種が現れた。
「綱吉を行かせてよかったのですか?」
「ええ、今は構いません。いずれ綱吉君は僕のもとに戻ってきます。それよりも気になるのは、綱吉君と共に来た赤ん坊……アルコバレーノ。恐らく彼はボンゴレ9代目のお気に入りである黒い死神リボーンです。彼はボンゴレの秘弾を使用できるはず。注意すべき点はそこですね。しかし誰が来ようと綱吉君は渡しませんよ。クフフフフ。」
骸は楽しそうに笑った。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

「はい、ツナ。」
そういってビアンキは替えの服を綱吉に渡した。
「ありがとう。」
礼をいい綱吉は服を受け取る。
骸が言っていた先輩というのはリボーンが見せてくれた写真の六道骸だった。
しかし、ニセ六道――ランチアもまた骸によって操られていたようだ。
さらに綱吉に負けたランチアは口封じのために攻撃を受け、一時間以内に解毒剤を与えないと危険らしい。
それもすべて骸の仕業だという。
どちらにせよ骸には会いに行く必要があるようだ。
「オレ、骸さんを止めに行くよ。会って話さなくちゃいけないこともあるし。」
綱吉が「骸さん」と言ったことにリボーンとビアンキが微かに眉を顰めた。
ビアンキに借りた服を着ていると獄寺が起きて来た。
だが山本は気を失ったままだったので置いていくことになった。
(ごめん!山本、こんなことに巻き込んで!)
そう心で詫びていると綱吉がフゥ太を探しに行ったときに倒したというバーズの鳥が『バーズ ヤラレタ!』と鳴きながらある建物へ飛んでいった。
どうやらその建物に骸がいるよう
(恭弥さんもあの中にいるかもしれない。…どうか無事で。)
しかし頼みの死ぬ気弾もランチアを倒すときに使ったのが最後の一発だったため、綱吉たちも危機的状態だった。
するとリボーンが話しかけてきた。
「…おめぇ、六道骸に会ったんだな。」
それは問いではなくほぼ断定した言い方だった。
『っな!』
それに驚きの声を出したのは、綱吉ではなく獄寺とビアンキだった。しかもしっかりハモッていた。
綱吉は少し困ったような顔をして答える。
「うん。さっきフゥ太を追いかけて雑木林の中に入っていったときに…ね。」
「10代目!なにもされませんでしたか!?」
獄寺がすかさず心配してきた。おまけに綱吉の手を握っていた。
「あ、うん、なにもされなかったよ。ちょっと話しただけで。」
連れて行かれそうにはなったけど。心の中でそう続ける。
「でもツナ、さっき六道骸のことを骸さんって呼んでいた様だけど、もしかして知り合いなの?」
「アネキ!10代目とそんなマフィアを追放された奴が知り合いな訳ないだろ!」
獄寺は倒れていたため、どうやら先ほどの綱吉の話を聞いていなかったようだ。
「ごめん、獄寺君。ビアンキが言っていることは本当なんだ。オレと骸さんは多分知り合いなんだ。」
「多分?」
ビアンキが聞く。
「あ〜、うん、オレは覚えてないんだ。骸さんのこと。獄寺君とビアンキには言ってなかったけ?オレ、6歳から10歳の間の記憶が曖昧というか無いというか、どうもハッキリしないんだ。多分その間で知り合ったんだと思うんだけどね。向こうはオレのこと知ってたみたいだし。」
「じゃあ骸はツナをボンゴレ10代目と知っていたってこと?」
「いや、それは知らなかったみたい。どうもオレは柿本千種と城島犬とも知り合いみたいで、その柿本さんが獄寺君と戦ったときにオレがボンゴレだと気が付いたみたいだったし。」
「ふ〜ん、じゃあ骸の目的って何なのかしらね。」
それは綱吉も考えていたことだ。
骸はボンゴレの10代目候補を探していた。そして綱吉のことも。
その目的は別々のはずだ。一体何のため?
そんな事をグルグルと考えていたがさっぱり分からない。
「わからねぇなら本人に聞きゃいい。それにやるべきことは決まってるしな。」
リボーンがそういう。
「目的は分からないけど、骸さんを止めないとまた新たな犠牲者が出る可能性がある。だからオレはなんとしても骸さんを止めるよ。」
すると今まで黙っていた獄寺がガシッと綱吉の肩を掴み
「10代目!申し訳ございませんでした!!10代目がそのようなことを一人抱え思い悩んでいただなんて!不詳ながら10代目の右腕候補としてやってきておりましたが、そのようなことに気付かず今までいた事を大変遺憾に思います!!ですから1人で思い悩まずいつでもこの獄寺を頼ってきてください!!」
「あ、ありがとう。」
涙ながらに一気にまくし立てる獄寺に綱吉は少し引きながらなんとか礼をいう。
そうこうしている内に骸がいるであろう建物に着く。
入り口辺りで綱吉は少し佇んだ―――――怖い。ギュッとコブシを握る。
何故か綱吉はヒバリにとても逢いたくなった。



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