夢名残の空6


『それにしても気に入りませんね。……その―――のことも忘れてしまえばいいんです。』

これは確か前にも見た夢。
彼が微笑む。
怖い?怖くない?よく分からないヒト。でも知っている。あのよく通る声。綺麗な色の瞳。
オレは知ってるはず。
――あのヒトは―――
ふと自分の手を見る。
鮮やかな赤。紅。
独特の匂いが鼻を付いた。
口の中に錆びた鉄の味が広がる。
――――――――――血?
綱吉は自分が頭から血を被っていることに気付く。
大きな眼がさらに見開かれる。
自分のした事に気が狂いそうになる。――自分のした事?
あの人が優しく語りかけてくる。
唇に何かが触れる感触がした。気が遠くなる。
「約束です。必ず迎えに行きますから。」


綱吉は飛び起きた。
肩で息をし汗を掻いている。魘されていたようだ。
そんな綱吉にハンモックで寝ていたリボーンが声をかける。どうやら綱吉が魘される声で目が覚めたらしい。
「どうした、ツナ?」
いつもなら眠りを邪魔されたらどんな理由であろうと綱吉を殴るのに、その尋常ならない様子にリボーンも心配したようだ。
少し目を潤ませてリボーンを見る。
「あ、…ごめん。起こした?」
「何かあったのか?」
「……………………………わからない。」
なんとかそれだけを言った。
でも本当にわからないのだ。
「まだ起きるにはもう少し時間があるから寝ろ。」
綱吉がこれ以上は何も言わないだろうと判断しリボーンはそう言った。
そしてまた寝に入った。
綱吉は息が整うまで体を起こしていたが暫くすると布団に潜り固く目を瞑った。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

綱吉が目を覚ますと既にリボーンの姿はなかった。
(……頭イタイ)
夢見が悪かったのは分かるのだがヒバリさんの夢の時と違って内容がハッキリしない。
まるで6歳から10歳までの記憶のようにあやふやだ。
寝ぼけ眼で制服に着替え階段を降りると、リボーンは食事を終え食後の一杯を飲んでいた。
いつも思うのだが赤ん坊のクセによくあんな苦い飲み物が飲めるものだ。
その横を通りながら冷蔵庫を開け自分の飲み物を取ろうとした時、奈々に話しかけられる。
「並中大丈夫なの?また襲われたらしいじゃない。」
「?…何それ?」
まだボーっとした頭で聞き返す。
すると奈々の代わりにリボーンが答えた。
綱吉は気が付いていないが、どうやら先ほどまで黙っていたのは今朝、綱吉が魘されていたのを心配し様子を見ていたようだ。しかしいつもと、さほど変わらない綱吉を見て安心したのか話し出す。
「この土日で並盛中の風紀委員8人が重傷で発見されたんだぞ。やられた奴はなぜか歯が抜かれるんだ。全部抜かれた奴もいたらしいな。」
「え〜〜!!?マジでーーーー!?」
一気に綱吉は目が覚める。この土日にそんなことになっていたなんて思いもしなかった。
「な…なんでそんなことするんだ?」
「さーな。」
綱吉は疑問を口にするが理由は不明らしく、その場の誰にも分からなかった。
その後、奈々とリボーンに護身術を習ったほうがいいなど色々と進められた為さっさと朝食を済まし家を出た。
そしてふと気が付く。
(風紀委員ばかりってもしかして恭弥さんも狙われているんじゃぁ!?)
そういえば先週の金曜も何か機嫌悪そうだったし。もしかして知ってたのかな?いや、そうだったらこの土日の内に恭弥さんなら片付けるはずだから違うか。
リボーンと護身術の話しながらそんなことを考えていると、いつの間にか並中の校門近くまで来ていたらしく風紀委員の姿があちらこちらに見えた。
異様な光景だ。見ているだけでピリピリした様子が伝わってくる。
すると校門の手前でヒバリに出会った。
(よかった。恭弥さんは無事だったんだ。)
綱吉はそう思ったがヒバリの機嫌の悪さに思わず怯える。
金曜日の機嫌の悪さの比ではなかった。
今なら誰もが思わず道を譲るであろう。
そんな綱吉に気が付いたのかヒバリは少し殺気を押さえた。
ヒバリは綱吉との約束を守って幼馴染という関係は誰にもバラしていなかった。
しかし、最近どうもリボーンが感づいているような気が綱吉はしていた。
するとヒバリの携帯が鳴る。
綱吉はとりあえずその場を去ろうとするがヒバリから止められ固まった。
「笹川了平……やられたよ。」
「………!」
もう今日の夢といいワケが分からない。
「キョっ…ヒバリさん。笹川のお兄さんが運ばれた病院は?」
「……並盛中央病院。」
ヒバリは少し考えてから答えた。
「ありがとうございます。あと、今日は応接室には行けないと思います。ごめんなさい。じゃあ。」
綱吉は言い終わるかどうかの内にヒバリに聞いた了平の入院した病院へリボーンと一緒に向う。
残されたヒバリの周りは急速に温度を下げる。
(黒曜の連中。絶対に許さないよ。僕から綱吉との時間を奪ったんだからね!)
そう思うとヒバリは何処へとも無く歩き出した。

そんなことを知りもしない綱吉は病院に着き、なんとか了平に会えたがやはり歯を持っていかれていた。
この土日の事件と同一犯による犯行のようだ。
その内、京子が来たのでその場を任せ廊下に出る。
すると病院の廊下、待合室は並中生で溢れていた。
どうやら了平以外にも風紀委員じゃない人が襲われたという。
何故?どうして?と綱吉が余り良くない頭を悩ましていると風紀委員と副委員長である草壁が横を通り抜けていく。
誰もが頭を下げる。綱吉も話していたクラスメイトに頭を押さえられ下げさせられるが草壁らの話し声が聞こえて来た。
「では、委員長の姿が見えないのだな。」
「ええ、いつものようにおそらく敵の尻尾をつかんだかと…これで犯人側の壊滅は時間の問題です。」
(っ!恭弥さんが!!)
同じように話が聞こえていた並中生は皆、諸手を上げて喜んでいたが綱吉は余り喜べなかった。
幼馴染のあの人が強いのは良く知っている。だが何故か胸騒ぎがする。
綱吉はシャツの胸の辺りをギュッと握った。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

第一印象は最悪。
―――――――気に入らない。
何故か見ただけで思った。
だからさっさと咬み殺してしまおう。そう思ったのに。
桜を使われるとは。桜が弱点になったのは僅か半年ほど前のはず。
自分の情報が漏れるとは思ってもいなかった。
目の前の男――六道骸に脇腹を蹴られる。
「クフフ、今のは肋骨が何本かイキましたね。」
骸は既に満身創痍なヒバリを見下しながら楽しそうに言った。
「それにしても気に入りませんね。初対面で気に入らないなんて珍しいんですけどね。」
どうやら骸もヒバリと同じ事を思ったいたらしい。
「やっぱり名前がいけないんですかね。」
(……名前?)
「本当なら君も他の連中と一緒で歯を抜いた後は返してあげる予定だったんですよ。」
そこで髪を?まれヒバリは顔を上に向けられる。
骸の赤と青の珍しいオッドアイで右目には六の字が刻まれた不思議な目と目が合う。
「でも君は殺すことにしました。まぁ3位と2位狩りが終わった後にですけどね。僕はちゃんと順番は守るんで。」
骸はニッコリと微笑んだ。
「今回は時間があるので何故君が、この僕に殺されるか教えてあげますよ。」
骸はヒバリの髪を掴んだ手を離し語りだす。
「実は僕にはとてもかわいらしい想い人がいましてね。」
にこやかに惚気話を始める。
「喩えどんな姿であれその子であれば愛せる自信があるのですけれど、その子はまったく僕の気持ちに気付いてくれないどころか僕に会う度に別の男の話ばかりするのですよ。」
始めのほうは嬉しそうに語っていたが後半になると少し言葉に殺気が混もりだす。
「流石の僕も想い人に別の男の話をされ続け少し腹が立ちましてね。ですからその男と同じ名前のキョーヤという名を持つものと会った場合は、喩えあの子の話していたキョーヤ本人であろうと無かろうと殺してしまおうと、こう思ったわけで。」
「はっ、唯の振られ男のくだらない嫉妬?馬鹿馬鹿しい。」
ヒバリは自分の今の状況を省みず言い放つ。
「ええ、唯の嫉妬です。ですがそれであの子が手に入るのでしたら全てのキョーヤを殺してみせますよ。」
骸は笑顔で肯定した。
(なるほど、キョーヤと京谷か、共通点は。そして自分の恭弥。)
京谷一の殺害理由が目の前にいる男のくだらない嫉妬が原因だと分かったが、ヒバリはどこの誰とも分からないキョーヤの為に殺されてやるほどかわいくは無い。
が体に力が入らない。血を流し過ぎたのか視界がぼやけ意識が飛んでいきそうになる。
そんなヒバリを尻目に骸は続ける。
「ですが僕の想い人も今は行方知れずで…そうそうこの街ではまだ聞いていませんでしたね。どうでしょう?君はサワダツナヨシと言う名に心当たりはありませんか?」
(つ…な……よし?)
ヒバリは動揺するが表情には出さない。
(何故、ここで綱吉の名が?こいつらの探し人は綱吉?こいつに綱吉が関係している?)
分からないことだらけだったが一つだけはハッキリしている。
綱吉と骸を会わせてはいけない。何故かそう確信する。
そんなヒバリの反応の無さを見て、綱吉の情報はないと思ったのか骸は再度ヒバリの髪を掴む。
「どうやら知らないようですね。では続けましょう。」
骸は再度ヒバリを蹴り上げた。
綱吉の笑顔が酷く遠くに感じられた。


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