また同じ蓮華の上で会いましょう



※また同じ蓮華の上で会いましょう※


一度目の転生では「希望を」
二度目の転生では「期待を」
三度目の転生では「願い」
四度目の転生では「切望し」
五度目の転生では「失望を」
六度目の転生で「くだらない」と思った。


現世に見切りをつけ、もう随分と転生を拒んできた。
転生したところで人間の醜さを改めて認識させられるだけだ。
前世と常世の記憶を持っているのだから転生を重ねるたびに闇が深くなるだけだった。
だが、それは常世の者達にとっても転生を拒むというのは異常なことらしく、幾度か再度転生を促がされたが、その度に断ってきた。

「あんなくだらない世界に用はない」

六道全てを巡ったこともあった。
単なる暇潰しに。
そこでは様々なスキルを手に入れたが、やはり一時の暇潰しに過ぎず、現世へ転生する気はまったく起きなかった。


自分は常世の者達にとって厄介者だと自覚していた為、ある時『はざま』へ移動することにした。
『はざま』とは現世と常世の間にあると言われているが、実際のところ良く分からない。
ただ、そう呼ばれる空間が幾つもあることは確かだ。
『はざま』にはそれぞれ扉がある。今いる『はざま』にも自分の背をゆうに超える大きな扉が二枚向かい合うように立っていた。
一つは漆黒の、もう一つは純白の。
小さな池の上に浮いている。池には幾つもの大きな蓮が咲いており、扉の間を道のように連なって咲いていた。
現世で死んだものは漆黒の扉から『はざま』へ来る。
漆黒の扉を通ることで記憶を真っ黒に塗られ現世でのことを思い出せなくなる。
そして純白の扉を通って現世と常世での出来事を全て消され現世に転生する。
大抵の者は漆黒の扉と純白の扉の間は立ち止まることなく扉をくぐり現世に転生する。
『はざま』によって扉が開かれる回数が異なり、今自分がいる『はざま』にある扉は滅多に使われることが無い。
寧ろそういった『はざま』を選んで来たのだから当たり前だ。
現世より来たものなど煩わしいだけだ。
しかしある時、この『はざま』の扉を開いた者がいた。
『はざま』には扉以外の空間も広がっており、常に扉の前に居たわけではないのだが偶然見つけてしまった。
扉と扉の間の蓮の花の上に膝をかかえて座る人物を。
彼の人はこちらに背を向け座っている為、気が付いていない。
小柄で淡い色の髪をした子どものようだ。
着ているものは真っ白な死装束。
常なら近寄らない、気付かせない、話さない。出て行くまで放っておく。
でも、少し好奇心が出た。この『はざま』の扉を開いた奇特なものは一体どんな者なのか。
邪魔だと感じればさっさと現世の扉へ放り込めばいいことだ。
ゆっくりと音を立てることなく近寄った。
彼の人が座る同じ蓮の花に乗る。

「こんなところで何をしているのですか?」
「え!?ってうわっ!」

声を掛けると驚いたのか、後ろを振り向きざまにバランスを崩し、そのまま池へ落ちそうになる。
それを咄嗟に腕を掴み助けた。

「あ、ありがとうございます」
「……いえ、急に声をかけた僕も悪かったですから」

そう言いながら、池へ落ちかけた子どもを見た。大きな目に柔らかい少女めいた顔立ち。しかし子どもは少年のようだ。
大きな目は琥珀色の透きとおった瞳をしている。

「で、何をしてるんですか?」
「え?」

自分の質問に子ども大きな瞳をパチパチとさせる。

「あ、あの…人を、待ってるんです」
「人を?君はあの黒い扉から来たのでしょう?」
「そうですけど?」
「…誰を?」
「あの、ヒバリさんを。雲雀恭弥さんを待ってるんです」

もう少し話を詳しく聞いたが、奇妙な話だ。
彼はあの黒い扉をくぐったのに『雲雀恭弥』という人物のことを覚えているらしい。
しかし、自分の名前や今までのことは分からないらしい。
自分の名前は思い出せないのに『雲雀恭弥』のことだけは覚えていると。

「でも、そのヒバリさんとやらが、この扉から来るとは限りませんよ」
「ええ、でもヒバリさんが待っててって言ってましたからオレはココで待ちます」
「そのヒバリさんがもしこの扉から来たとしても、本来あの扉をくぐったものは記憶を失います。偶々、君はそのヒバリさんとやらのことを覚えていましたが、彼は君の事を忘れているかもしれませんよ」
「でもオレは覚えています。だから待つんです」

なんだこの揺ぎ無さは。人間なんて不安を煽れば直ぐにぐらつく脆い生き物では無かったのか。
不安に駆られて他人を裏切る生き物では無かったのか。
目の前の少年は特に強い魂の光があるわけでもなく、寧ろ小さな蝋燭のような淡い光しか持たない魂なのに。
そのくせ「あちらに別の扉がありますよ」とウソをつくと信じて行こうとする。(直ぐに嘘だとバラしたが特に自分を疑うようなこともなく、精々からかった程度と思われているようだ)
揺らぐと思ったところで揺らがず、妙なところで抜けている。変わった人物だと思った。
だが、今まで自分の周りに居なかったタイプに更に好奇心が増し、彼と一緒に『雲雀恭弥』を待つことにした。
それは現世と違い常世に近い『はざま』では短い時間ではあったが、ただ自分が面白いと感じるには十分な時間だった。
よっぽど『雲雀恭弥』との現世の縁が強かったのか。常世に来て自分の名は忘れても待ち人の名は忘れない。恐らく今までの転生でもこうして縁を結んできた結果なのだろう。
それはもう偶然などではなく『天の理』
魂の片割れ。運命の人。来世に繋がる縁。
時折、そのような者達がいると聞いたことがあった。目にすることは無いと思っていたが。
ただ、酷くそれは自分の中にある願望を抱かせる。
目の前の少年を愛おしいと思えば思うほどに。クルクルと良く回る表情。大きな琥珀の瞳。少し高めの柔らかい声。この少年の全てを欲しいと願うようになった。常世でも現世でも。

「実はこの間から何だか眠いんです。でも寝ればヒバリさんを見失ってしまうようで」

そう言いながら少年は目を擦る。
常世に眠りはない。常世『はざま』での眠りは強制的な転生を意味する。
完全な眠りに入ることにより無理やり現世への扉をくぐらせるのだ。
本来ならばこのような場所に短時間とはいえ、留まっていてはいけないのだ。それは次の転生に支障がでる。

「君は現世が好きですか?」
「はい!ヒバリさんに会えるなら」

ああ、なんと残酷な言葉だろう。
生まれて初めて興味を持った、愛した人は別の人と結ばれる運命…『理』とは。
では、自分の取る行動は決まっている。

「君に誓いをたてましょう」
「誓い?」
「君に僕の名前を教えてあげますよ。僕の名前は―――――です」
「――――――ですね。じゃあ――さんと今度から呼びますね」

かなり眠いのを我慢しているのだろう目がトロンとしているが、確りと自分の名前を少年は口にする。
転生まで時間が無い。ふらついている少年を抱きしめ誓った。

「七生を以って御身御守護にお仕えいたします」
「――さん?」

問うように自分の名を口にしたが次の瞬間には少年は丸い淡い光となった。
少年の魂に自分の名を刻み付ける。
傷つけないように、ゆっくりと自分の両手で包み込む。
願いと共に彼の少年の魂を現世への扉へくぐらせた。
ゆっくりと光は去っていった。

そして後ろの扉が開く。
確信を持って声を掛ける。

「遅かったですね。雲雀恭弥」
「君に名前を名乗った覚えは無いんだけど。それに綱吉をどこへやったの?」

軽く目を見張った。そして楽しそうに口角をクッと上げる。

「凄いですね、君たちは。彼は君の名前だけしか覚えていませんでしたが、君は全てをこの『はざま』でも覚えているのですね。まぁ僕は前世の記憶も全て覚えてますが。彼は君が余りにも遅いんで先に転生の扉をくぐりましたよ。でも、まぁ通常より長い時間『はざま』にいましたから多少現世に転生するのが遅くなるかもしれませんが」
「だったら君に用はないよ。僕は綱吉を追いかける」
「一つ良い事を教えてあげましょう」

笑みを深くする。

「現世の縁は常世の縁に繋がります。常世の縁は来世の縁に繋がります。僕はその綱吉君の魂に僕の名を刻みました。君たちの縁は『天の理』によって必ず来世も絆となるでしょう。それに比べれば僕の縁は微々たるものでしょうが必ずもらいにいきますよ。彼を、ね」

『天の理』だという理由で諦めるつもりはサラサラ無い。あの醜くくだらない世界にあの少年の魂が穢されるのは許しがたい。他人の手に渡るのも我慢できない。
地には『人の理』があるだろうが、人が作った決まりごとなど取るに足らない。
もう二度と転生などしないと思っていたが、くだらない世の中を消してしまえるのであれば、『あの子』を手に入れられるのであれば、それさえも喜びとなる。

「それでは」

トンッと蓮の花を蹴り後ろ向きのまま純白の転生の扉をくぐった。雲雀は『お前になど渡さない』といった目つきで睨んでいた。それを見てただただ、とても愉快な気持ちになった。


来世でも常世でも必ず会いに行きますから。

また同じ蓮華の上で会いましょう 綱吉君





※あとがきみたいなもの※
 え〜『一蓮托生』というのは『また同じ蓮華の上で会いましょう』という意味の仏教用語ですね。
私もハルミ様に言われるまで忘れてましたが…