夢名残の空1
毎度のリボーンのハタ迷惑な提案でマフィアのアジトを作るため応接室に来たのだが、そこで
強烈な一打を頬にくらい綱吉が気がつくと既に獄寺と山本が床に倒れていた。
「ごっ…獄寺君!!山本!!なっなんで!!?」
「起きないよ、二人にはそういう攻撃をしたからね」
綱吉は一瞬の間にこの二人を倒したのであろう人物を驚愕の眼差しで見上げる。
「ゆっくりしていきなよ。……久しぶりなんだしね。」
「へ?」
聞こえるかどうかの声に思わず間抜けな声を上げた。
(今、久しぶりって言わなかった?この人)
聞き返そうとするが次の瞬間にはリボーンに死ぬ気弾を撃たれ、その時は聞き損ねてしまった。
かと言って今更、聞きに行くことも出来ない。…怖くて。
リボーンに死ぬ気弾を撃たれた後、あのヒバリさんに綱吉は一発お見舞いしただけでなく、さらにレオンが化けていたとはいえスリッパでヒバリの頭を叩いたのだ。
…………次に会ったときは殺されるかもしれない。
わざわざ、そんな中に飛び込んで行くほど綱吉もボケてはいなかった。
やっぱり自分の身の安全が大切なのだ。
聞くに聞けないので綱吉はヒバリに言われた『久しぶり』の意味を考えてみたりもしたのだが、以前に会った覚えもなくまったく思い出せなかった。
それともあの期間に会ったのだろうか?でもなんか違う気がするし。
きっと久しぶりの獲物とかそんなことを言っていたんだろう。
そう思い綱吉は忘れてしまおうと心に誓ったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『――待――よ。つなよし』
夢を見た。
『―当に、―間の―かる――ね。君は――』
誰かがオレに話しかけてくる夢を見た。
大きな木がある。枝には無数の薄い桃色の花が咲き誇り空を覆っていた。
その木の周りには花びらが舞い、子供…少年が立っていた。
何と言っているのかよく聞き取れないが、その少年に自分の名前を呼ばれているのは分かる。
姿は靄がかってハッキリと見えない。ただ小学生の低学年ぐらいの少年であることは分かる。
よく知ってる声のはずなのに。誰?誰だろう?誰だか分からない。
自分に問いかけてみるが分からない。
『―――――つなよし』
とても懐かしいのに。思い出したいのに。―――――思い出せないことがとても悲しくて泣きそうになった。
思い出せなくて辛そうに俯く綱吉に、その子は手を伸ばしてくる。
その伸ばされた手をジッと見つめる。誰か分からないのにとても安心する自分に綱吉は気が付く。そして、その子の手を取ろうとした。
次の瞬間、急な突風にさっきまでヒラヒラと舞っていた花びらが舞上がり綱吉の視界を遮る。
花びらが消え、次に目を開いた時には先ほどとは違う場所にいた。キョロキョロと辺りを見回すがどこにも、あの大きな木とあの少年は居なかった。
代わりにどこまでも続く闇が辺りを支配していた。自分の立ってる場所さえ地面なのかどうかも分からない。
そして、さっきまで自分を呼んでいたのとは別の声が聞こえる。
『―が―れさ――あ―――よ。』
『待――て――さい。―えに―ま――ら。』
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
その声もハッキリと何を言っているのか聞こえないのだが、綱吉は何故か恐怖する。
綱吉は目をギュッと瞑り、両手で耳を塞ぎ蹲る。
『それにしても気に入りませんね。……その―――のことも忘れてしまえばいいんです。』
何故か最後のその声だけはハッキリと聞こえた。
目覚めは最悪だった。頭痛までする。
しかも遅刻ギリギリの時間だった為、家まで迎えに来ていた獄寺君と走って学校まで行き、なんとか遅刻は免れた。が、校門を入ってすぐに風紀委員長であるヒバリと草壁を始めとする風紀委員が居た。
(うわ〜、今日は風紀委員の立ち番があったんだ。あ、危なかった〜)
ビクビクしながら入って行くとヒバリと目が合った。するとスッとヒバリは眉間に皺を寄せる。
……こ、怖っ!ヒバリさん機嫌悪そう。
「ああ、てめぇ何、十代目にガンツケてんだ!!」
「ご、獄寺君、いいから早く行かないとHRに間に合わないよ。」
そんなヒバリの態度に獄寺が突っかかって行こうとするのを何とか止め、下駄箱のほうへ押して行く。
綱吉は引き攣った笑みを浮かべながらヒバリに会釈し、そそくさと下駄箱で靴を履き替え教室に向かった。さわらぬ神に祟りなしである。
なんとか教室にはいると山本が綱吉に気が付いた。
「おはよツナ。危なかったな。」
「おはよ山本。ビックリしたよ。今日に限って風紀委員が立ち番してるんだもん。遅刻しそうになって獄寺君にも迷惑掛けちゃったし。」
「迷惑なんてそんな、俺は十代目の為なら遅刻なんてなんのその、火の中、水の中、銃撃戦の中どこへだって行きますよ。」
「……そんな大げさな。」
何となく獄寺の言いたいことは分かるのだが何か違うよなぁ、それって。
「あはは、やっぱり獄寺はおもしれー奴だな。」
山本は冗談だと思い笑っているが、獄寺は本気だろう。…間違いなく火の中、水の中、銃撃戦の中飛び込んで行くだろう。そう綱吉は思い、心の中で溜め息をつく。
「そーいえばツナさぁ、最近、遅刻ギリギリが多いけど何かあったのか?」
「あっ!もしかして、体調でも悪いんですか?」
山本と獄寺が少し心配そうに聞いてくる。
「あ、ううん、体調は悪くないよ。ただ……夢見が少し悪くて」
綱吉は少し苦笑いしながら答える。
「夢ってどんな?」
「えっと、大きな木が―――――あっ先生が来たみたい」
山本の問いに答えようとすると教室の引き戸がガラッっと開き、担任が入ってきたので話は中断してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
綱吉はHRの担任の話を聞き流しながら、先ほど山本に話していた事を思い出す。
確かに、山本が言ってたようにツナは最近というか、ここ一週間遅刻ギリギリで登校しているのだ。
それも夢のせいで。
確かに夢見が悪くて一日、二日遅刻しそうになる事もあるかもしれない。
が、流石にこの一週間同じ夢を見せられたら堪ったもんじゃない。
今日は心配した獄寺君が迎えに来てくれたのに、こんな有様だった。
…なんとかしなくては。
とりあえず、夢の内容を思い出して見る。
夢の内容を思い出したからと言って解決するとは思ってもいないが、今の綱吉は藁にも縋る思いなのだ。
確か子供が自分を呼んでたんだけど、あれは誰だったんだろう?
それに関しては靄がかっていた為、いくら考えても分からなかった。
そういえば今日の夢、何かいつもと違ってたよなぁ。
いつもはその子に手を伸ばした辺りで目が覚めるんだけど。なんか続きがあったような?
少し考えてみるがさっぱり思い出せなかった。
もういいや、オレを呼んでた子の方で何か他に無かったか思い出してみよう。
子供の後ろに大きな木があって、大きな木で……えっと、花びらがヒラヒラと舞っていて……確か薄い桃色の花で、桃色って言ったら桜かな…ん?…桜?………あっ!!
「あっ!!」
思わず大きな声を出してしまった為、クラス中の注目を浴びてしまう。
「どうした沢田。何か質問があるのか」
「あ、いえ、ありません…」
「だったら静かにしていろ」
担任の冷ややかな視線とクラス中の嘲笑の中、綱吉は顔を真っ赤にしながら俯いた。
一度目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。そしてまた、夢にでてきたあの大きな木を思い浮かべる。
多分、あの木が桜なら、あの場所で間違いないはず。
でも、なんで忘れてたんだろう?あんなに何度も通った場所なのに。
そこに行けば、あの子供のことも思い出すかもしれない。
行ったところで夢を見なくなる保証はどこにも無かったが、このままモヤモヤしたままでいるのも気持ちが悪かった。
綱吉は少しでも可能性があるのなら行ってみよう、そう決心し机に肘をつきその上に顎を乗せ、ふと窓の外を見る。
ヒバリが校門の辺りで風紀委員と何か話をしている姿が見えた。
そういえばヒバリさんて謎な人だよなぁ。
自宅を担任ですら知らないとか、登下校の姿を誰も見たこと無いとか、小学生の時には既に並盛の秩序として君臨していたとか……その他色々。
あくまでも噂なので本当かどうか分からないけど恐らく十中八九、本当なのだろう。
綱吉は応接室の事件以降にその噂を初めて知ったのだが、その噂を教えてくれたクラスメイトは、綱吉が数日前までまったくヒバリの事を知らなかったと言うと目を丸くし「信じられない。流石ダメツナだな。」と呟いた。
ほっといてくれ!小さい頃は並盛に居たけど、中学に入るまでは別の土地育ったのだから知らなくて当たり前だ。綱吉はそう思った。
そんな事を思い出しながら、ふと思う。そうえいばオレ、ヒバリさんの下の名前も知らないや。だってみんなヒバリさんって呼んでるし。下の名前も謎とかなぁ。もしかしてヒバリという名前が苗字じゃなくて下の名前とか。
……まぁ、ヒバリさんはヒバリさんだから、そんなに気にすることでもないか。
最後には半分どうでも良くなり自分なりにそう結論付けた。
もう一度窓の外を見るともうヒバリは居なくなっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の授業が終わると綱吉は急いで帰る準備をする。
「十代目、一緒に帰りましょう。」
「ごめん、獄寺君。今日はちょっと用事があって。」
にこやかに誘ってくれる獄寺に対し申し訳なさそうに綱吉は断りを入れる。
ちなみに山本は野球の練習に行って既に教室にはいなかった。
「どっか行くんですか?お供しますよ!」
「あ〜、じ、実はリボーンのお使いで一人で行って来いって言われているんだ。」
綱吉は背中に冷や汗を流しながら嘘をついた。
何故かあの場所には一人で行きたかったのだ。
「そうですか。リボーンさんの言いつけでしたらムリは言えませんね。」
思ったよりあっさり引いてくれた獄寺に綱吉はゴメンと思いながらもホッと胸を撫で下ろしていた。
「でも、気を付けてくださいね。いつどこで十代目に危害を加えようとするやつが出てくるか分かりませんから!!」
「あはは、分かったよ。ありがとう獄寺君。」
そう言いながら綱吉は微笑む。
すると獄寺は顔を赤く染めながら
「本当に気を付けてくださいね!」
と綱吉の両手をしっかり握りながら念を押す。
綱吉はどうしてそこまで心配するのだろうと少し首を傾げた。
獄寺は心の中で叫んだ。
十代目!!その、かわいさが危険なんです!!
だが、その叫びは鈍い綱吉には1ミリも伝わらなかった。
校門で獄寺と別れ綱吉は目的地に向かう。
場所は公園だ。
かといって綱吉の家からほど近くにある公園ではなく、少し離れた場所にある公園。
幼少の頃より綱吉はダメツナのレッテルを貼られていた為、近所の公園では誰も遊びに入れてくれなかった。大抵の遊びは綱吉が必ずと言っていいほどビリになるのだ。かといって、一人で遊んでいても集団で突っかかられることもあり綱吉は少し離れた公園に行っていた。実を言うとこの頃の綱吉はよく保育園を抜け出しそこへ行っていたのだ。
その場所は山にある神社の一部を利用して作られた公園で一帯は木に覆われている為、一見しただけでは公園とは分かり難い。かなり広く遊具も充実している。しかし何故か滅多に人が来なかった。
そしてそこには大きな桜の木があった。
夢に出てきた大きな木はあの公園の桜の木のはず。
しかし綱吉は少し心配していた。
(あの公園まだあるかなぁ。公園はあっても桜の木が無かったらどうしよう。)
綱吉が最後にその公園に行ったのは確か5、6歳の時だったはず。
公園が残っていても、桜の木が切られている可能性がある。
その考えに至り思わず足を止める。
(ダメだ、ダメだ!とりあえず行ってみなきゃ分かんないしね。)
目を瞑り顔をブンブンと左右に振り、綱吉は悪い考えを払拭するように歩き始める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カバンをしっかりと胸の辺りに抱き綱吉は入り口に立つ。
良かった。
その公園はまだあった。少しホッとする。
そして綱吉は公園の中に足を踏み入れた。
(うわ〜、懐かし〜。)
懐かしさのあまり綱吉は公園の中を見回す。
公園は以前と変わりなく静かで少し遊具が痛んでいた。
「そうだ!桜の木は?」
綱吉が探している桜の木は公園内を少し奥に入ったところにある階段を昇ったところにある為、公園の入り口からは確認できない。
小走りで奥へ駆けて行き少し息を乱しながらも階段を一段抜きで昇って行く。そして階段の最後の段を昇りきる。
桜の木はあった。
悠然としたその姿、大きく伸びた枝。流石に今は秋の為、桜は咲いていなかったが。
間違いなく夢で見た木だった。
綱吉は桜の木に近づこうとしたがビクッと足を止める。
桜の木の周りに人が倒れていたのだ。しかも一人では無く何人も。その中央に1人だけ立っている人がいた。
…こ、これはもしかして
恐る恐る、倒れた人の中心に立つ人物に目をやる。
すると目が合った。綱吉の予想通りトンファーを両手に持ち、少し顔に返り血を浴びたヒバリが立っていた。
どうやら倒れているのはココで運悪く群れていた不良の皆さんのようだ。
な、なんでここにヒバリさんが!?
混乱する綱吉にヒバリが話しかける。
「君、ここで何してるの。」
そう言いながらヒバリがトンファーを持ったまま綱吉に近づいてくる。
ひぃ〜、か、咬み殺される!!
そう綱吉は思い逃げ出そうとしたが、返り血を浴びたヒバリを見て急に何かがフラッシュバックした。
目の前がグニャリと歪む。
えっ、何…コレ?
綱吉は眩暈を起こし足の力が抜ける。
そして先ほど昇ってきた階段へ体が傾く。
ヤバイ、落ちる!!
そう綱吉は思い何とか体勢と立て直そうとするが体に力が入らない。
そして次にくるであろう衝撃を予想し思わず目を瞑る。
で、できれば捻挫程度でお願いします!!神様!
綱吉は神に祈ったところで、どうにかなるとも思えないことを祈る。
しかし次の瞬間、腕を何かに?まれグイッと落ちて行く方向とは逆に引っ張られる。
「えっ?って、うわっ!」
予想外の動きに綱吉は階段から落ちるのを免れたが前のめりに体勢を崩し倒れ込む。
階段の下の方で持っていたカバンが落ちる音がした。
イタタタ、何だったんだ今の?
「ねえ。」
頭の上から声がした。
「へっ?」
綱吉は声の方へ顔を向けピシッと石の様に固まる。
ヒバリの顔が目の前にあった。
そしてヒバリの上に乗っかるようにいる自分を認識しズザザザッと後ろに飛び退く。
「ス、スミマセン!!!」
あわわわわ、な、何やってんだよオレ!なんでヒバリさんの上に乗っかってるわけ!?
するとヒバリは少し不満そうに眉を顰める。
「何で謝るのさ。普通は助けてもらったら『ありがとう』でしょ。」
「はへっ?あ、ありがとうございます。」
とりあえず言われた通りに礼を言うが綱吉は益々混乱し目を白黒させていた。
どうやら階段から落ちそうになった綱吉の腕を引っ張り、助けたのはヒバリのようだった。
オレ、ヒバリさんに助けられたの?何で?どうして?
一人混乱する綱吉を尻目にヒバリは、パンパンと制服に付いた埃を手で払いながら立ち上がる。
そしてまだ尻餅をついたような体勢でいる綱吉に目をやり、ふぅと小さく溜め息をつく。
「本当に、君は昔から難儀な子だね。ほら、立ちなよ。」
そう手を差し伸べる。
ヒバリを知る人物が他にこの場にいたら信じられないものを見てしまったと、いや、ヒバリが他人を助けるわけがないと現実逃避するに違いない。
しかし、綱吉は違った。
差し伸べられたヒバリの手をジッと見ている。
そしてまたフラッシュバックする。眩暈は無かった。ただ少しボンヤリとした感じになる。
桜の花びらが舞う。
少年が仕方が無いといった感じで少し微笑みながら綱吉に手を差し伸べる。
夢の中とは違い今度は顔が見えた。自分と違い癖っ気の無い流れるような黒髪、スッと通った黒目で綺麗な顔立ちの少年だった。そして同時にとても懐かしく嬉しい気持ちになる。
―――思い出した。
「キョーヤさんだ!!」
綱吉は思い出した少年の名前を思わず口にしてしまう。
それを聞いたヒバリは器用にピクッと驚いたように片眉を上げるが綱吉は気が付かない。
そして、
「なに?」
ヒバリはそう聞き返す。
そこで綱吉はヒバリがいる事を思い出した。
「あ、スミマセン!あの、じ、実はオレ夢に出てくる子供の事を思い出そうとしてココに来てそれで丁度今、その子のこと思い出して、それで」 綱吉自身混乱している為、うまく説明できなかったが大体そんなとこだった。
「ふ〜ん。で?」
「へっ?」
うまく説明できたとは思わないが何故そこでヒバリに「で?」と聞き返されたのか分からず綱吉は困惑する。
「へっ?じゃないよ。君、思い出したって言いながら、何も思い出してないじゃない。」
「えっ?えっ?えっ?????」
思い出したのに思い出してないってどういうことぉ?
綱吉はさらに困惑の表情を深める。
「君、もしかして僕の名前知らないなんて言わないよね。」
心なしか先ほどより声が低い。綱吉は怖じ気つきながら考える。
なんでこの場でヒバリさんの名前の話?
「な、名前って『ヒバリ』さんじゃないんですか?」
「それ、苗字。下の名前の方。」
………知らない。
朝も思ったがヒバリさんの謎の一つだと思っていたぐらいなのだ。知るワケが無い。
そう思ったが綱吉は答えなかった。なぜか言ってはいけないような気がしたのだ。
が、ヒバリはその様子を見て全てを悟ったのか不機嫌そのものといった表情をする。
「へぇ〜、知らないんだ。」
わわわわわ、ヤバイ。明らかに言葉に怒気が含まれている。
するとヒバリは口角をクッと歪めながら綱吉に言う。
「ふっ。コレだけは君が嫌がると思って、止めておいてあげたんだけど…流石にちょっと頭に来たよ。」
な、何だろ。凄く嫌な感じがするんですけど!?
そう思い、綱吉は止めようと口を開きかけたがヒバリの方が早かった。
「君、飛んできた蛾が怖くて大泣きしたよね。」
「………は?」
「ゴキブリも苦手だった。バナナで転んだこともあったし、週に一度は必ず転んでた。保育園のカケッコを始めとする個人競技で一度も勝てなかったよね。集団競技も苦手だった。ああ、ハムとソーセージの区別が分からなかったりとか、バターとマーガリンの区別も知らなかったね。コーヒーも苦くて飲めなかったし、つぶあんも苦手だった。鼻に豆がつまって病院に泣きながら行ったこともあった。サイヤ人と言われて苛められてたし、年下にまでよく呼び捨てにされてたよね。確か、女子とは話したこと無いって言ってたし、将来は巨大ロボになりたい言った時は本当に君の将来を心配したよ。雲丹(ウニ)をいくら教えてもクモタンと読んでいたしね。雲雀も読めなかったね。流石にそれは覚えさせたけどね。でも僕の名前すら覚えてないくらいなんだから、どうやら無駄だったようだけど。」
「※#$*@¥☆§£!な、な〜〜〜〜!?!!!!!ちょっ、ちょっとスト―――」
いきなりヒバリがスラスラと自分の恥を言いだし、綱吉は混乱と余りの恥かしさに顔を真っ赤にしながら、何とか止めようと立ち上がり手を伸ばす。
が、ヒバリは続ける。
「せっかく僕が教えてあげてるのに5メートル以上泳げなかったし。夜、部屋の電気を消すと寝れないと僕に泣きついてきた事もあった。………もっと言ってあげようか。」
ヒバリは意地悪そうな笑みを浮かべそう言った。
「な、ななななな、なんでヒバリさんがそんなこと知ってるんですか!!!!」
「知ってるからだよ。」
しれっとヒバリは答える。
「知ってるって……」
もう、ここまで来たら流石の綱吉もなんとなく分かってきた。
普通ならもっと早くにあのキョーヤさんが大きくなったらこんな感じだろうなぁと思うだろうが、いかんせん綱吉は鈍かった。
あまり信じたくない綱吉は先ほどやっと思い出したキョーヤさんの事を改めて思い出す。
だって、オレの知ってるキョーヤさんは群れてるのが嫌いで、気に入らない人はトンファーで倒したし、我が道を行く人で、綺麗な顔立ちで頭も良くて……………。
思い出せば思い出すほどそれは今のヒバリと変わらなかった。
今まで気付かなかった自分が恨めしく思う。
「ヒバリさんの下の名前ってキョーヤなんですか?」
「そうだよ。正確には恭弥。雲雀恭弥。」
「それで、その、ヒバリさんってあのキョーヤさんなんですか?」
「あのキョーヤがどのキョーヤか知らないけど、君の幼い頃に一緒によくココに来ていたのは僕だよ。綱吉。」
最後に名前を呼ばれ体の力がフニャリと抜けてしまった。
夢の少年の事を思い出せるかもと思いココまで来たのだが、思いかけず本人まで見つけてしまった。
しかも意外な人だったのだから体の力も抜けもする。
そんな綱吉の様子を見てヒバリは少し俯き肩を震わせて笑っている。
「キョーヤさん酷いです。そんなに笑わなくたっていいじゃないですか。」
少しムッとして綱吉がヒバリに言った。思わず下の名前で。
それを聞いたヒバリは一瞬驚いた様子だったが次には笑って返した。
「悪かったよ。綱吉があまりにも昔と変わってなかったから、可笑しくてつい、ね。」
そしてまだ地面に座り込んでいる綱吉に再度手を伸ばしながら言う。
「いつまでそうしているつもり。さっさと立ちなよ。それともまだ座っていたいの?」
「あ、立ちます、立ちます。」
そう言って綱吉はヒバリの手を取る。
ヒバリは立ち上がった綱吉を見て、少し微笑みながら
「久しぶり、綱吉。」
と言った。
それを聞いて綱吉は少しビックリしながらも嬉しそうに微笑み
「お久しぶりです、恭弥さん。」
そう返した。
>>2
強烈な一打を頬にくらい綱吉が気がつくと既に獄寺と山本が床に倒れていた。
「ごっ…獄寺君!!山本!!なっなんで!!?」
「起きないよ、二人にはそういう攻撃をしたからね」
綱吉は一瞬の間にこの二人を倒したのであろう人物を驚愕の眼差しで見上げる。
「ゆっくりしていきなよ。……久しぶりなんだしね。」
「へ?」
聞こえるかどうかの声に思わず間抜けな声を上げた。
(今、久しぶりって言わなかった?この人)
聞き返そうとするが次の瞬間にはリボーンに死ぬ気弾を撃たれ、その時は聞き損ねてしまった。
かと言って今更、聞きに行くことも出来ない。…怖くて。
リボーンに死ぬ気弾を撃たれた後、あのヒバリさんに綱吉は一発お見舞いしただけでなく、さらにレオンが化けていたとはいえスリッパでヒバリの頭を叩いたのだ。
…………次に会ったときは殺されるかもしれない。
わざわざ、そんな中に飛び込んで行くほど綱吉もボケてはいなかった。
やっぱり自分の身の安全が大切なのだ。
聞くに聞けないので綱吉はヒバリに言われた『久しぶり』の意味を考えてみたりもしたのだが、以前に会った覚えもなくまったく思い出せなかった。
それともあの期間に会ったのだろうか?でもなんか違う気がするし。
きっと久しぶりの獲物とかそんなことを言っていたんだろう。
そう思い綱吉は忘れてしまおうと心に誓ったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『――待――よ。つなよし』
夢を見た。
『―当に、―間の―かる――ね。君は――』
誰かがオレに話しかけてくる夢を見た。
大きな木がある。枝には無数の薄い桃色の花が咲き誇り空を覆っていた。
その木の周りには花びらが舞い、子供…少年が立っていた。
何と言っているのかよく聞き取れないが、その少年に自分の名前を呼ばれているのは分かる。
姿は靄がかってハッキリと見えない。ただ小学生の低学年ぐらいの少年であることは分かる。
よく知ってる声のはずなのに。誰?誰だろう?誰だか分からない。
自分に問いかけてみるが分からない。
『―――――つなよし』
とても懐かしいのに。思い出したいのに。―――――思い出せないことがとても悲しくて泣きそうになった。
思い出せなくて辛そうに俯く綱吉に、その子は手を伸ばしてくる。
その伸ばされた手をジッと見つめる。誰か分からないのにとても安心する自分に綱吉は気が付く。そして、その子の手を取ろうとした。
次の瞬間、急な突風にさっきまでヒラヒラと舞っていた花びらが舞上がり綱吉の視界を遮る。
花びらが消え、次に目を開いた時には先ほどとは違う場所にいた。キョロキョロと辺りを見回すがどこにも、あの大きな木とあの少年は居なかった。
代わりにどこまでも続く闇が辺りを支配していた。自分の立ってる場所さえ地面なのかどうかも分からない。
そして、さっきまで自分を呼んでいたのとは別の声が聞こえる。
『―が―れさ――あ―――よ。』
『待――て――さい。―えに―ま――ら。』
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
その声もハッキリと何を言っているのか聞こえないのだが、綱吉は何故か恐怖する。
綱吉は目をギュッと瞑り、両手で耳を塞ぎ蹲る。
『それにしても気に入りませんね。……その―――のことも忘れてしまえばいいんです。』
何故か最後のその声だけはハッキリと聞こえた。
目覚めは最悪だった。頭痛までする。
しかも遅刻ギリギリの時間だった為、家まで迎えに来ていた獄寺君と走って学校まで行き、なんとか遅刻は免れた。が、校門を入ってすぐに風紀委員長であるヒバリと草壁を始めとする風紀委員が居た。
(うわ〜、今日は風紀委員の立ち番があったんだ。あ、危なかった〜)
ビクビクしながら入って行くとヒバリと目が合った。するとスッとヒバリは眉間に皺を寄せる。
……こ、怖っ!ヒバリさん機嫌悪そう。
「ああ、てめぇ何、十代目にガンツケてんだ!!」
「ご、獄寺君、いいから早く行かないとHRに間に合わないよ。」
そんなヒバリの態度に獄寺が突っかかって行こうとするのを何とか止め、下駄箱のほうへ押して行く。
綱吉は引き攣った笑みを浮かべながらヒバリに会釈し、そそくさと下駄箱で靴を履き替え教室に向かった。さわらぬ神に祟りなしである。
なんとか教室にはいると山本が綱吉に気が付いた。
「おはよツナ。危なかったな。」
「おはよ山本。ビックリしたよ。今日に限って風紀委員が立ち番してるんだもん。遅刻しそうになって獄寺君にも迷惑掛けちゃったし。」
「迷惑なんてそんな、俺は十代目の為なら遅刻なんてなんのその、火の中、水の中、銃撃戦の中どこへだって行きますよ。」
「……そんな大げさな。」
何となく獄寺の言いたいことは分かるのだが何か違うよなぁ、それって。
「あはは、やっぱり獄寺はおもしれー奴だな。」
山本は冗談だと思い笑っているが、獄寺は本気だろう。…間違いなく火の中、水の中、銃撃戦の中飛び込んで行くだろう。そう綱吉は思い、心の中で溜め息をつく。
「そーいえばツナさぁ、最近、遅刻ギリギリが多いけど何かあったのか?」
「あっ!もしかして、体調でも悪いんですか?」
山本と獄寺が少し心配そうに聞いてくる。
「あ、ううん、体調は悪くないよ。ただ……夢見が少し悪くて」
綱吉は少し苦笑いしながら答える。
「夢ってどんな?」
「えっと、大きな木が―――――あっ先生が来たみたい」
山本の問いに答えようとすると教室の引き戸がガラッっと開き、担任が入ってきたので話は中断してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
綱吉はHRの担任の話を聞き流しながら、先ほど山本に話していた事を思い出す。
確かに、山本が言ってたようにツナは最近というか、ここ一週間遅刻ギリギリで登校しているのだ。
それも夢のせいで。
確かに夢見が悪くて一日、二日遅刻しそうになる事もあるかもしれない。
が、流石にこの一週間同じ夢を見せられたら堪ったもんじゃない。
今日は心配した獄寺君が迎えに来てくれたのに、こんな有様だった。
…なんとかしなくては。
とりあえず、夢の内容を思い出して見る。
夢の内容を思い出したからと言って解決するとは思ってもいないが、今の綱吉は藁にも縋る思いなのだ。
確か子供が自分を呼んでたんだけど、あれは誰だったんだろう?
それに関しては靄がかっていた為、いくら考えても分からなかった。
そういえば今日の夢、何かいつもと違ってたよなぁ。
いつもはその子に手を伸ばした辺りで目が覚めるんだけど。なんか続きがあったような?
少し考えてみるがさっぱり思い出せなかった。
もういいや、オレを呼んでた子の方で何か他に無かったか思い出してみよう。
子供の後ろに大きな木があって、大きな木で……えっと、花びらがヒラヒラと舞っていて……確か薄い桃色の花で、桃色って言ったら桜かな…ん?…桜?………あっ!!
「あっ!!」
思わず大きな声を出してしまった為、クラス中の注目を浴びてしまう。
「どうした沢田。何か質問があるのか」
「あ、いえ、ありません…」
「だったら静かにしていろ」
担任の冷ややかな視線とクラス中の嘲笑の中、綱吉は顔を真っ赤にしながら俯いた。
一度目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。そしてまた、夢にでてきたあの大きな木を思い浮かべる。
多分、あの木が桜なら、あの場所で間違いないはず。
でも、なんで忘れてたんだろう?あんなに何度も通った場所なのに。
そこに行けば、あの子供のことも思い出すかもしれない。
行ったところで夢を見なくなる保証はどこにも無かったが、このままモヤモヤしたままでいるのも気持ちが悪かった。
綱吉は少しでも可能性があるのなら行ってみよう、そう決心し机に肘をつきその上に顎を乗せ、ふと窓の外を見る。
ヒバリが校門の辺りで風紀委員と何か話をしている姿が見えた。
そういえばヒバリさんて謎な人だよなぁ。
自宅を担任ですら知らないとか、登下校の姿を誰も見たこと無いとか、小学生の時には既に並盛の秩序として君臨していたとか……その他色々。
あくまでも噂なので本当かどうか分からないけど恐らく十中八九、本当なのだろう。
綱吉は応接室の事件以降にその噂を初めて知ったのだが、その噂を教えてくれたクラスメイトは、綱吉が数日前までまったくヒバリの事を知らなかったと言うと目を丸くし「信じられない。流石ダメツナだな。」と呟いた。
ほっといてくれ!小さい頃は並盛に居たけど、中学に入るまでは別の土地育ったのだから知らなくて当たり前だ。綱吉はそう思った。
そんな事を思い出しながら、ふと思う。そうえいばオレ、ヒバリさんの下の名前も知らないや。だってみんなヒバリさんって呼んでるし。下の名前も謎とかなぁ。もしかしてヒバリという名前が苗字じゃなくて下の名前とか。
……まぁ、ヒバリさんはヒバリさんだから、そんなに気にすることでもないか。
最後には半分どうでも良くなり自分なりにそう結論付けた。
もう一度窓の外を見るともうヒバリは居なくなっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の授業が終わると綱吉は急いで帰る準備をする。
「十代目、一緒に帰りましょう。」
「ごめん、獄寺君。今日はちょっと用事があって。」
にこやかに誘ってくれる獄寺に対し申し訳なさそうに綱吉は断りを入れる。
ちなみに山本は野球の練習に行って既に教室にはいなかった。
「どっか行くんですか?お供しますよ!」
「あ〜、じ、実はリボーンのお使いで一人で行って来いって言われているんだ。」
綱吉は背中に冷や汗を流しながら嘘をついた。
何故かあの場所には一人で行きたかったのだ。
「そうですか。リボーンさんの言いつけでしたらムリは言えませんね。」
思ったよりあっさり引いてくれた獄寺に綱吉はゴメンと思いながらもホッと胸を撫で下ろしていた。
「でも、気を付けてくださいね。いつどこで十代目に危害を加えようとするやつが出てくるか分かりませんから!!」
「あはは、分かったよ。ありがとう獄寺君。」
そう言いながら綱吉は微笑む。
すると獄寺は顔を赤く染めながら
「本当に気を付けてくださいね!」
と綱吉の両手をしっかり握りながら念を押す。
綱吉はどうしてそこまで心配するのだろうと少し首を傾げた。
獄寺は心の中で叫んだ。
十代目!!その、かわいさが危険なんです!!
だが、その叫びは鈍い綱吉には1ミリも伝わらなかった。
校門で獄寺と別れ綱吉は目的地に向かう。
場所は公園だ。
かといって綱吉の家からほど近くにある公園ではなく、少し離れた場所にある公園。
幼少の頃より綱吉はダメツナのレッテルを貼られていた為、近所の公園では誰も遊びに入れてくれなかった。大抵の遊びは綱吉が必ずと言っていいほどビリになるのだ。かといって、一人で遊んでいても集団で突っかかられることもあり綱吉は少し離れた公園に行っていた。実を言うとこの頃の綱吉はよく保育園を抜け出しそこへ行っていたのだ。
その場所は山にある神社の一部を利用して作られた公園で一帯は木に覆われている為、一見しただけでは公園とは分かり難い。かなり広く遊具も充実している。しかし何故か滅多に人が来なかった。
そしてそこには大きな桜の木があった。
夢に出てきた大きな木はあの公園の桜の木のはず。
しかし綱吉は少し心配していた。
(あの公園まだあるかなぁ。公園はあっても桜の木が無かったらどうしよう。)
綱吉が最後にその公園に行ったのは確か5、6歳の時だったはず。
公園が残っていても、桜の木が切られている可能性がある。
その考えに至り思わず足を止める。
(ダメだ、ダメだ!とりあえず行ってみなきゃ分かんないしね。)
目を瞑り顔をブンブンと左右に振り、綱吉は悪い考えを払拭するように歩き始める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カバンをしっかりと胸の辺りに抱き綱吉は入り口に立つ。
良かった。
その公園はまだあった。少しホッとする。
そして綱吉は公園の中に足を踏み入れた。
(うわ〜、懐かし〜。)
懐かしさのあまり綱吉は公園の中を見回す。
公園は以前と変わりなく静かで少し遊具が痛んでいた。
「そうだ!桜の木は?」
綱吉が探している桜の木は公園内を少し奥に入ったところにある階段を昇ったところにある為、公園の入り口からは確認できない。
小走りで奥へ駆けて行き少し息を乱しながらも階段を一段抜きで昇って行く。そして階段の最後の段を昇りきる。
桜の木はあった。
悠然としたその姿、大きく伸びた枝。流石に今は秋の為、桜は咲いていなかったが。
間違いなく夢で見た木だった。
綱吉は桜の木に近づこうとしたがビクッと足を止める。
桜の木の周りに人が倒れていたのだ。しかも一人では無く何人も。その中央に1人だけ立っている人がいた。
…こ、これはもしかして
恐る恐る、倒れた人の中心に立つ人物に目をやる。
すると目が合った。綱吉の予想通りトンファーを両手に持ち、少し顔に返り血を浴びたヒバリが立っていた。
どうやら倒れているのはココで運悪く群れていた不良の皆さんのようだ。
な、なんでここにヒバリさんが!?
混乱する綱吉にヒバリが話しかける。
「君、ここで何してるの。」
そう言いながらヒバリがトンファーを持ったまま綱吉に近づいてくる。
ひぃ〜、か、咬み殺される!!
そう綱吉は思い逃げ出そうとしたが、返り血を浴びたヒバリを見て急に何かがフラッシュバックした。
目の前がグニャリと歪む。
えっ、何…コレ?
綱吉は眩暈を起こし足の力が抜ける。
そして先ほど昇ってきた階段へ体が傾く。
ヤバイ、落ちる!!
そう綱吉は思い何とか体勢と立て直そうとするが体に力が入らない。
そして次にくるであろう衝撃を予想し思わず目を瞑る。
で、できれば捻挫程度でお願いします!!神様!
綱吉は神に祈ったところで、どうにかなるとも思えないことを祈る。
しかし次の瞬間、腕を何かに?まれグイッと落ちて行く方向とは逆に引っ張られる。
「えっ?って、うわっ!」
予想外の動きに綱吉は階段から落ちるのを免れたが前のめりに体勢を崩し倒れ込む。
階段の下の方で持っていたカバンが落ちる音がした。
イタタタ、何だったんだ今の?
「ねえ。」
頭の上から声がした。
「へっ?」
綱吉は声の方へ顔を向けピシッと石の様に固まる。
ヒバリの顔が目の前にあった。
そしてヒバリの上に乗っかるようにいる自分を認識しズザザザッと後ろに飛び退く。
「ス、スミマセン!!!」
あわわわわ、な、何やってんだよオレ!なんでヒバリさんの上に乗っかってるわけ!?
するとヒバリは少し不満そうに眉を顰める。
「何で謝るのさ。普通は助けてもらったら『ありがとう』でしょ。」
「はへっ?あ、ありがとうございます。」
とりあえず言われた通りに礼を言うが綱吉は益々混乱し目を白黒させていた。
どうやら階段から落ちそうになった綱吉の腕を引っ張り、助けたのはヒバリのようだった。
オレ、ヒバリさんに助けられたの?何で?どうして?
一人混乱する綱吉を尻目にヒバリは、パンパンと制服に付いた埃を手で払いながら立ち上がる。
そしてまだ尻餅をついたような体勢でいる綱吉に目をやり、ふぅと小さく溜め息をつく。
「本当に、君は昔から難儀な子だね。ほら、立ちなよ。」
そう手を差し伸べる。
ヒバリを知る人物が他にこの場にいたら信じられないものを見てしまったと、いや、ヒバリが他人を助けるわけがないと現実逃避するに違いない。
しかし、綱吉は違った。
差し伸べられたヒバリの手をジッと見ている。
そしてまたフラッシュバックする。眩暈は無かった。ただ少しボンヤリとした感じになる。
桜の花びらが舞う。
少年が仕方が無いといった感じで少し微笑みながら綱吉に手を差し伸べる。
夢の中とは違い今度は顔が見えた。自分と違い癖っ気の無い流れるような黒髪、スッと通った黒目で綺麗な顔立ちの少年だった。そして同時にとても懐かしく嬉しい気持ちになる。
―――思い出した。
「キョーヤさんだ!!」
綱吉は思い出した少年の名前を思わず口にしてしまう。
それを聞いたヒバリは器用にピクッと驚いたように片眉を上げるが綱吉は気が付かない。
そして、
「なに?」
ヒバリはそう聞き返す。
そこで綱吉はヒバリがいる事を思い出した。
「あ、スミマセン!あの、じ、実はオレ夢に出てくる子供の事を思い出そうとしてココに来てそれで丁度今、その子のこと思い出して、それで」 綱吉自身混乱している為、うまく説明できなかったが大体そんなとこだった。
「ふ〜ん。で?」
「へっ?」
うまく説明できたとは思わないが何故そこでヒバリに「で?」と聞き返されたのか分からず綱吉は困惑する。
「へっ?じゃないよ。君、思い出したって言いながら、何も思い出してないじゃない。」
「えっ?えっ?えっ?????」
思い出したのに思い出してないってどういうことぉ?
綱吉はさらに困惑の表情を深める。
「君、もしかして僕の名前知らないなんて言わないよね。」
心なしか先ほどより声が低い。綱吉は怖じ気つきながら考える。
なんでこの場でヒバリさんの名前の話?
「な、名前って『ヒバリ』さんじゃないんですか?」
「それ、苗字。下の名前の方。」
………知らない。
朝も思ったがヒバリさんの謎の一つだと思っていたぐらいなのだ。知るワケが無い。
そう思ったが綱吉は答えなかった。なぜか言ってはいけないような気がしたのだ。
が、ヒバリはその様子を見て全てを悟ったのか不機嫌そのものといった表情をする。
「へぇ〜、知らないんだ。」
わわわわわ、ヤバイ。明らかに言葉に怒気が含まれている。
するとヒバリは口角をクッと歪めながら綱吉に言う。
「ふっ。コレだけは君が嫌がると思って、止めておいてあげたんだけど…流石にちょっと頭に来たよ。」
な、何だろ。凄く嫌な感じがするんですけど!?
そう思い、綱吉は止めようと口を開きかけたがヒバリの方が早かった。
「君、飛んできた蛾が怖くて大泣きしたよね。」
「………は?」
「ゴキブリも苦手だった。バナナで転んだこともあったし、週に一度は必ず転んでた。保育園のカケッコを始めとする個人競技で一度も勝てなかったよね。集団競技も苦手だった。ああ、ハムとソーセージの区別が分からなかったりとか、バターとマーガリンの区別も知らなかったね。コーヒーも苦くて飲めなかったし、つぶあんも苦手だった。鼻に豆がつまって病院に泣きながら行ったこともあった。サイヤ人と言われて苛められてたし、年下にまでよく呼び捨てにされてたよね。確か、女子とは話したこと無いって言ってたし、将来は巨大ロボになりたい言った時は本当に君の将来を心配したよ。雲丹(ウニ)をいくら教えてもクモタンと読んでいたしね。雲雀も読めなかったね。流石にそれは覚えさせたけどね。でも僕の名前すら覚えてないくらいなんだから、どうやら無駄だったようだけど。」
「※#$*@¥☆§£!な、な〜〜〜〜!?!!!!!ちょっ、ちょっとスト―――」
いきなりヒバリがスラスラと自分の恥を言いだし、綱吉は混乱と余りの恥かしさに顔を真っ赤にしながら、何とか止めようと立ち上がり手を伸ばす。
が、ヒバリは続ける。
「せっかく僕が教えてあげてるのに5メートル以上泳げなかったし。夜、部屋の電気を消すと寝れないと僕に泣きついてきた事もあった。………もっと言ってあげようか。」
ヒバリは意地悪そうな笑みを浮かべそう言った。
「な、ななななな、なんでヒバリさんがそんなこと知ってるんですか!!!!」
「知ってるからだよ。」
しれっとヒバリは答える。
「知ってるって……」
もう、ここまで来たら流石の綱吉もなんとなく分かってきた。
普通ならもっと早くにあのキョーヤさんが大きくなったらこんな感じだろうなぁと思うだろうが、いかんせん綱吉は鈍かった。
あまり信じたくない綱吉は先ほどやっと思い出したキョーヤさんの事を改めて思い出す。
だって、オレの知ってるキョーヤさんは群れてるのが嫌いで、気に入らない人はトンファーで倒したし、我が道を行く人で、綺麗な顔立ちで頭も良くて……………。
思い出せば思い出すほどそれは今のヒバリと変わらなかった。
今まで気付かなかった自分が恨めしく思う。
「ヒバリさんの下の名前ってキョーヤなんですか?」
「そうだよ。正確には恭弥。雲雀恭弥。」
「それで、その、ヒバリさんってあのキョーヤさんなんですか?」
「あのキョーヤがどのキョーヤか知らないけど、君の幼い頃に一緒によくココに来ていたのは僕だよ。綱吉。」
最後に名前を呼ばれ体の力がフニャリと抜けてしまった。
夢の少年の事を思い出せるかもと思いココまで来たのだが、思いかけず本人まで見つけてしまった。
しかも意外な人だったのだから体の力も抜けもする。
そんな綱吉の様子を見てヒバリは少し俯き肩を震わせて笑っている。
「キョーヤさん酷いです。そんなに笑わなくたっていいじゃないですか。」
少しムッとして綱吉がヒバリに言った。思わず下の名前で。
それを聞いたヒバリは一瞬驚いた様子だったが次には笑って返した。
「悪かったよ。綱吉があまりにも昔と変わってなかったから、可笑しくてつい、ね。」
そしてまだ地面に座り込んでいる綱吉に再度手を伸ばしながら言う。
「いつまでそうしているつもり。さっさと立ちなよ。それともまだ座っていたいの?」
「あ、立ちます、立ちます。」
そう言って綱吉はヒバリの手を取る。
ヒバリは立ち上がった綱吉を見て、少し微笑みながら
「久しぶり、綱吉。」
と言った。
それを聞いて綱吉は少しビックリしながらも嬉しそうに微笑み
「お久しぶりです、恭弥さん。」
そう返した。
>>2