十年前に行ってきました4

鬱々のした気分で何年か振りに制服の袖に腕を通す。

目が覚めると全ては夢だったのです。というコトには残念ながらならなかった。

奈々は昨日の夜には帰ってきていたのだが、綱吉が入れ替わっていることには気が付いていないようだ。
――傍目に見る限りは。
自分の母ながら、全てにおいて大らか過ぎる性格だが、この人はこの人で侮れない。

とりあえず朝食を済ませさっさと学校に向かうことにした。

「行ってきま〜す。」
「あら?いつもより早くない?」
「えっ、あ、あの今日は日直だから早く行かないとダメなんだ。」
う〜、うまい誤魔化し方が思いつかない。
「そうなの?気をつけてね。」

だが奈々はあっさり納得したようだ。
これ以上、深く突っ込まれても困るのでそそくさと家をでた。

◇◇◇

綱吉はまだ朝だと言うのに本日何度目かの溜め息をつく。
こっちに来てから、数え切れないほどの溜め息の嵐だ。

その姿はまるで一枚の絵画に描かれたような艶のある憂いを帯びた顔だった。
溜め息さえもその姿を彩る。
誰もが一瞬目を奪われるが、誰一人としてそれが綱吉だと気が付かない。
この十年で綱吉自身は艶を帯び、何ともいえない色気を醸しだしていた。
ハッキリ言って目立っている。だが当の本人は気が付かない。
しばらく綱吉の通学路では謎の美少年の噂が流れた。


そんなことも露知らず、綱吉は鬱々としたまま学校に向かった。
学校に入る前には、バレないように気を引き締めたのが良かったのか、通学中のように目立つことは無かった。
流石に早いせいか教室には三人しかおらず、その三人に目を丸くされた。
やはり早く来過ぎたのだ。

席に着こうとして一瞬固まる。
(自分の席はどこだっけ?)
一つ一つ確かめるわけにもいかず、ましてやクラスメイトにオレの席どこ?って聞く訳にも行かない。
こんなことなら獄寺と一緒にくれば良かったと思うが後の祭りである。
ど、どうしよう。と悩んでいると後ろからポンと肩に手を置かれる。

「よぉツナ。今日はえらく早いな。」
「え?あ、や、山本。」
「どうしたんだよ?教室の入り口にボーと突っ立って。」

昨日は獄寺にバレない自信はあると言っていたが早くも窮地に立たされていた。
その間にも山本は綱吉を教室に促がす。
(マジでヤバイ。)
冷や汗が出る。

「あ、そうだ。ツナ、コレ昨日借りてた辞書、机の上置いとくな。」
「へ?あ、ああ。うん、置いといて。」

山本が辞書を窓際の席の一つに置いた。
(偉い!十年前のオレ。よくぞ山本に辞書を貸した。)
自分で十年前の自分を褒めながら急いで席に向かう。

そして机の中の置いてある教科書を見て間違いなく自分の机だと確認した。
椅子に座りまた溜め息をつくと、今日はずっとこんな感じなのかと思うと先が思いやられた。

◇◇◇

綱吉は慣れない事はしないものだと後悔していた。気分転換どころではない
昔と違って授業内容は分かるのだが………眠い。
二時間目にして船を漕ぎはじめた綱吉は、空から降り注ぐポカポカ陽気も手伝って、三時間目が始まるころには、すっかり夢の住人になっていた。

ポカリという抜けた音と、頭に当たった軽い衝撃で綱吉は薄っすらと意識を取り戻す。

「沢田!お前、俺の授業中に寝るとはいい度胸だな。」

教室内ではクスクスと忍び笑いが起きていた。
綱吉は微睡んだ目を教師に向ける。
妙に色気のある綱吉の目に教師は少し戸惑った。
だが流石は教師。顔を少し赤くしながらも言った。

「さ、沢田!!どうやら授業が退屈なようだな。だったらフランス・ルネッサンスについて述べてみろ!寝ているくらいだからそれくらい出来るんだろう?」

その社会科の教師は授業中に居眠りをしたものに厳しかった。
しかも中学では習わないような問題を出しては、生徒が困る様子を見て楽しんでいる節があり、生徒からは嫌われていた。

獄寺はもしもの時はいつでも飛び出せるよう構えた。
だが綱吉はボンヤリしたままガタッと椅子から立ち上がる。

「New aesthetic conceptions imported from Italy, and the patronage of the arts by the royalty helped spread the development of art. The French Renaissance was character-ized by the superiority of the ancients and humanism. It had a more realistic character compared to the Italian Renaissance which was rather formal.」

綱吉の口から流暢な英語が紡がれた。
教師はあんぐりと口を開けたまま固まっている。
クラスメイトも似たようなものだった。
獄寺に至っても目を丸くしている。
しかし、綱吉は寝ぼけたままだ。

「あ、日本だった。え〜と、イタリアから輸入された新しい美意識や王室による芸術の庇護は、芸術の発展を拡大するのを助け、フランス・ルネッサンスは、古典学と人道主義の優越性によって特徴づけられます。それはやや形式的だったイタリア・ルネッサンスに較べ、一層現実的な性格を持ちました。…これでいいですか?」
「は?あ、ああ。よろしい。」

綱吉は教師の了解の返事を聞き、スッと座りまた眠りについた。
今度は教師も起こさなかった。

後から獄寺と山本がその事を言うと、本人はまったく覚えていなかった。
その答えは、綱吉がリボーンに教わった時に丸暗記したものだった為、まるで論文を読んでいるような答えだったのだが、無意識のうちに答えを言ったようだ。
綱吉はリボーンの教育に感謝するよりも、むしろ寝ていても反射的に回答させられるスパルタ教育に思い出し恐怖した。

◇◇◇

そんなこんなで何とか放課後になり獄寺が近づいてきた。

「十代目!家までご一緒しますよ。」

聞きなれた言葉だったのだが、綱吉はどこか違和感を覚えた。
そして気が付く。

「獄寺君。タバコ切れてるなら、無理して家まで送ってもらわなくてもいいよ。」

獄寺は驚いたように綱吉を見る。
彼はかなりのヘビースモカーだ。きっと今すぐにでも買いに行きたいはずだ。

「いえ、俺のコトなんかよりも、十代目のほうが―――。」
「それ以上は言っちゃダメ。昨日も言ったよね。君は君の十代目を大事にして上げてって。それにオレは一応、二十歳超えてるんだから。」

そう言われると獄寺も大人しく引き下がるしかない。
くれぐれも気をつけて、と言い残し獄寺は教室をでて行った。

クラスメイトも部活に行ったか、もしくは帰ったか教室に残っているのは綱吉だけとなっていた。

窓から見た真っ赤な夕日が空をも覆ってゆく。
(こういうのを逢魔が時っていうんだよなぁ。……魔に逢う時…か。)

こんな時に昨日の骸の言葉を思い出し、教室から出れないでいた。
帰りたくないのだとしたらヒバリとの喧嘩のせいだ。
喧嘩の原因は実に下らない事だ。

「帰りたくない…か。」
「どうして?」

誰に言うでもなく綱吉が呟いた言葉に問いが帰ってきた。
(並盛の魔王キターーー!!)
綱吉は固まる。
ダメだダメだダメだダメだダメだ。

「ねぇ、どうして帰りたくないの?」

ゆっくりとした歩みで綱吉にヒバリが近づいてくる。
綱吉は振り向けないでいた。
スッと背後に人が立つ気配がした。

「…君、誰?」
「だ、誰って、さ、沢田綱吉ですよ。」

声が震えた。
しかしヒバリはキッパリと言った。

「違うね。君は確かに綱吉だけど、僕の綱吉じゃない。」

(…何で、何で分かるんだろう?この人には。)
泣きそうになってやっと自分の気持ちに気が付いた。
(オレは―――恭弥さんに会いに帰りたいんだ。)

すると開いた窓の外にジャンニーニの姿が見えた。

「十代目!!直りました!これで元に戻るはずです。」

そう言うと十年バズーカーを綱吉向けて撃った。
周りを煙が覆う。
綱吉はそこでようやくヒバリを振り返り、首に腕を回し耳元に口を寄せた。
そして小さく呟く。

『恭弥さん。ごめんなさい。』

(多分、十年後の貴方には謝れないと思うから。)

ヒバリは少し訝しげに眉を寄せたが何も言わなかった。

そして煙が晴れる頃にはヒバリの腕の中に、寝ている綱吉があった。何故か後頭部に大きなタンコブが出来ている。
先ほどの綱吉と同じ顔だが確かに自分の綱吉だ。

綱吉に向けてバズーカーを撃ったジャンニーニは、綱吉が元に戻ったのを確認すると何故か嬉しそうに何処かへ消えていた。

ヒバリは腕の中に確かな綱吉の体温を感じ、薄っすら笑みを浮かべる。

「大好きだよ、綱吉。」

そしてその頬に口付けを落とした。





後書きみたいなもの

お、終わった〜。
ヒバリさんが出てこなくて焦りました(オイ)

最後までお付き合いくださりありがとうございました。


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